「うん。だから、退院したら僕と結婚してほしい。社長夫人になって、今度こそ守らせてくれないかな」
「ずっと家の中にいろってこと?」
「早智が働きたいのなら、働いていいよ。さすがに同じ会社はもう無理だけど」
「……雪くんには心配をかけたくないから、お母さんに相談してみる。私も安心して働けるところがいいもの」

 結婚するということは、社員じゃなくてもリバーブラッシュを背負うことと同じ。また何かあれば、マスコミ沙汰になってしまうのだ。

 もう私だけの問題じゃない。雪くんと一緒に背負っていくんだ。

「それでも私、お嬢様育ちだから、至らないところはいっぱいあると思うの」
「大丈夫。僕よりも早智の方が育ちはいいんだ。だから金銭面以外で、助けてもらうことの方が多いと思う。けど、僕はそんなことで自分を卑下したり、早智を蔑ろにしたりしないよ」
「確かに生まれを気にする人はいるけれど、雪くんはそうじゃないって知っているから大丈夫」
「早智……」

 安心し切った雪くんの顔から、私は眼鏡を取った。そして驚いた隙をついて、ネクタイを引っ張り、顔を寄せてキスをする。

「私を諦めないでくれてありがとう、雪くん。改めて、よろしくね」