都心から一時間、という位置にあるというのに、我が家だけ時代錯誤のようだった。

 それは仕方がない。何せ身内が近くに住んでいるのだから、地方の田舎と何一つ変わらなかった。場所がたまたま都心に近いというだけで。

「おかえり、早智」

 玄関を開けると、早速お母さんが姿を現した。まるでゲームに出てくる中ボスのようである。ラスボスはお父さんかな。

 穏やかな顔で出迎えてくれるのもまた、不気味だった。

「ただいま」
「名雪くん。今は白河さんだっけ。副社長だなんて、凄いわね」

 それはお母さんです。雪くんが説明したに違いないだろうけれど、それを持ち出して何を仕掛けてくるつもりだろう。

「本当にお付き合いしているの?」
「うん」
「入社して間もないのに?」
「同じ会社にいるんだから、当然、顔を合わせるでしょう? ビックリしちゃった。告白もされて――……」
「秘書に、だなんて新卒の早智に務まるの? それだったら伯父さんが経営している会社に務めるのと、そんなに変わらないと思うけど?」

 だからそんな会社、さっさと辞めなさい、という副音声が聞こえるようだった。

「そうかな。好きな人の傍にいられるのといられないのとじゃぁ、結構、違う気がするんだけど」
「……本気なの? 早智」
「うん。ただ、この家を出たいから言っている訳じゃないんだよ、お母さん」

 私がここまで強気に出られたのは、『今度は僕がって』言っていた、雪くんの言葉を信じたかったからだ。
 何せ雪くんはこの家の事情も、私の想いも知っている。

 だからきっと、何かあっても助けに来てくれる、とそう確信していた。