「それはともかく雪くん。いい加減、何時か教えて。あとここは何処なの?」

 明らかに隠しているのがバレバレだった。
 ベッドがあることから寝室だと分かるのに、時計が一つもないのは不自然である。

「ここは僕の部屋。副社長として相応しい部屋を、と会長が用意してくれたんだ」
「それなら尚更、時計がないのは何故? 私に知られたら、そんなにマズいことなの?」
「……早智がどういう行動を取るのか、だいたい分かるから」

 つまり、雪くんにとって困る行動、というわけだ。

「例えば?」
「高野辺家に帰ろうとする」
「替えの服がないもの。仮に、ここに住むことになっても、一度は必ず帰らなければ。それに仕事だって……」

 そうだ。仕事……っ!

「どうしよう。私、何も……!」
「大丈夫。今日は休ませるって連絡しておいたから」
「雪くんが?」

 聞いた私も私だけど、平然と頷く雪くんも雪くんだった。

「だって早智は、もう営業課の社員じゃないんだ」
「え?」
「僕付きの秘書になったんだよ。そう言ったじゃないか」

 あれは……方便じゃなかったの?

 思わず額に手を置くと、その隙を付かれてしまった。視界が悪くなった私は雪くんの手に気がつかず、肩をトンッと押された。

 そしてそのまま押し倒される。

「だから初仕事をあげるよ。今日は一日、この部屋でゆっくり休むこと。いいね」