「あっ、今、何時? もしかしなくても、日付が変わっているよね」
「うん。早智の寝顔を見ていたら、アッと言う間にね」
「そういう戯言(ざれごと)は今、聞きたくないの」

 というよりも、茶化さないでほしかった。

「戯言じゃないよ。それだけ早智は疲れていたってことだから。どう? 少しは疲れが取れた? 一応、シーツやマットレスは上等なものを使っているから大丈夫だと思うけど」
「……お嬢様扱いはしないで」
「ごめん。でも、僕のは他の奴らとは違う。早智が大事なんだ」

 あえて“心配”という言葉を使わなかったのは、私への配慮だ。その言葉が一番、嫌いなのを雪くんも知っているからだった。

 “心配”という言葉で私を縛る、高野辺家の人間と付属している者たち。今も私を“心配”しているのだろうか。
 高野辺家の名前に傷を付けないか、“心配”しているに違いない。

「それに、多分だけど、倒れたのは仕事の疲労とストレスだろうね。入社したては緊張し通しだから。あとは小楯たちからの圧力かな」

 確かに、アレは怖かった。

「雪くんはやっぱり小楯さんたちから……アプローチをかけられていたの?」
「まぁ、独身で副社長なんかやっていると、どこもそうだって聞いたよ」

 あからさまに非はない、と言いたいらしい。別に責めてなんていないのに。