「今の僕の前で、目を閉じるのは危険だよ」
「さ、先にキスをしておいて、それを言うの?」

 そんなつもりで目を閉じたわけじゃないのに。

「想いが通じ合って、そんなに時間が経っていないんだから仕方がないだろう」
「そう、だけど……で、雪くんはそのまま白河家の養子に?」
「あ、うん。元々、会長には千春さんしか子どもはいなかったから、その後継に選ばれたんだ」
「そしたら、千春さま、じゃなかった社長と結婚話が持ち上がったんじゃないの?」

 普通、婿養子にするはずだから。

「早智がそれを言う? 勿論、断ったさ。小学生の頃から好きな相手がいるからって」
「会長は納得された、のよね。雪くんが副社長の位置にいるのだから」
「うん。だから僕が社長になるまでの繋ぎとして、今は千春さんが社長をしているんだ」
「社長は、それをどう思っているのかしら」

 リバーブラッシュの歴史はそんなに古くはないけれど、ずっと一族経営してきた会社だ。
 それを養子とはいえ、他人である雪くんに任せる、と父親が言っても、納得できるのだろうか。

 私はできない。高野辺家を疎んでいる私でさえも、当主の座に知らない者が座るだなんて、絶対に嫌だ。

 千春さまは、どう思われたのだろうか。それを知ったのは、一週間後のことだった。