「中学までは義務教育だったから行くことはできたけど、高校はやっぱり無理だったんだ」
「えっ、でも小楯、さんだったっけ? 彼女たちは雪くんがアメリカの大学を飛び級で卒業したって言っていたけれど……」
「それは本当。すぐに就職した先の会社が、リバーブラッシュの子会社だったんだ。早智はうちの会社が何の会社か、勿論、知っているよね」
「当り前でしょう。歯磨き粉の会社。私がいるのは営業課なんだから、知らなかったら仕事にならないわ」

 そうだね、と私と雪くんは笑い合う。

「僕がいたのは印刷工場。請負先にリバーブラッシュがあって、歯磨き粉のパッケージを印刷していたんだ。そこで会長、白河家の旦那様に目をかけてもらったのがキッカケだった」

 印刷工場の社長とリバーブラッシュの会長は親戚で、口利きしてもらったらしい。雪くんの身の上に同情して。

 平静を装っていたけれど、心配そうな顔をしていたのだろう。雪くんがそっと私の頬を撫でる。

「大丈夫。あのままだと、早智と結婚できるどころか、告白すらできない位置にいたんだ。哀れみでも何でもいい。僕はそのチャンスを逃したくはなかった」
「雪くん……」

 そこまで想われていたとは知らず、私は目を閉じた。すると、柔らかいものが唇に当たる。