「それから、変にお人好しなところも危なっかしかったな」

 早智は時々、安請け合いをするのだ。無闇矢鱈にすると、ガキ大将こと瀬尾(せお)雄也(ゆうや)が威嚇するから、パシり扱いまではされなかったが……。

 あれは明らかに、早智への好意を示していた。幸い、不器用過ぎて気づかれてはいなかったが。

 だけどあまり安請け合いをしてほしくなくて、聞いたことがあった。

『どうしてホイホイ引き受けるんだよ? いいように使われているだけだって、高野辺だって分かっているだろう』
『……だって、皆との接点がほしいから。私も皆と同じだって』

 「そして普通がいいって。普通になりたいって言っていたよね」

 眠る早智の手を握る。

「僕も思っていた。普通に両親がいて、普通に皆と遊びに行けて……いや、ここは高野辺と、早智と出かけたかった。堂々と」

 でも孤児だから、そんな自由にできるお金はない。施設だって、僕たちを養うのに精一杯だったのだから、そんな贅沢は言えない。
 幼い子たちの面倒を誰かに押しつけて遊びになんて……それこそできなかった。

 早智がそれを知ったら、絶対に軽蔑される。旧家の生まれとあってか、早智は面倒見がいい方だった。

 だから僕も……そのお零れをもらえたんだ。でもそんなことはどうでもいい。

 あの日、助けてくれて、ずっと僕の傍にいてくれた早智。哀れみや施しじゃない、優しさと温かさをくれた早智。

 絶対に誰にも渡したくはなかった。傍にいられない間、誰かのものになったら、と気が気じゃなかったけれど……。

「こういう時、早智が高野辺家の人間であってくれて良かったよ」

 交際関係にうるさいから。

「だから早智に釣り合う男になりたかった。横に並んでも、いや前に立って守れるくらいの男に」

 そっと早智の前髪をかき分け、顔を近づける。寝ている女性にするのはダメだと思ったが、感情を抑え切れなかった。

 僕はそのまま、早智の額にキスをした。