ベッドの上に高野辺……いや、早智を横たわらせる。

 ここは高層マンションの一室。僕が白河家の養子として迎えられた時に与えられた部屋だった。
 そう、白河家は、中学に上がる時に引き取られた親戚ではない。僕が早智を手に入れるために選んだ、家柄だった。

 格式としては、早智の家である高野辺家から比べると落ちる。
 が、リバーブラッシュという大手企業を抱えている、という面では力のある家だった。それも、未だに一族経営をしているところがいい。

 ただがむしゃらに働いて社長になるよりも、養子縁組をする方がよっぽど効率が良かったからだ。のし上がる、という意味では。
 あと高野辺家を納得させる部分でも、十分に説得力があった。

「ただの孤児じゃ、反対されるのは目に見えている」

 財産目当てだと警戒されるからだ。

 前に早智が言っていた。

『叔母さんの旦那さんは、結婚してからしばらくすると、仕事をしなくなったの。だから離婚させられたんだって』
『大叔父さんは土地を売って生活している、とか』

 つまり、早智よりも稼ぎが良く、財産を食わない存在。それが最低条件だった。

「今、思うと、べらべらと喋り過ぎだよ」

 まぁ僕にとっては好都合だったけれど。高野辺家が求める人物像が絞れるからだ。

 けれど一つ心配なことがある。
 それは、本人は喋ってはいけない、という自覚がないところだった。

 気を許してくれているのは嬉しいし、そこが早智の良いところだった。けれどそれは、僕だけに対してではない。
 誰にでも優しくするから、心配になる。

 今だから言えることだけど、そういう情報は誰かに利用され易いから要注意なんだ。さすがに今は自覚していると信じたいけれど……。