マズい。ここで雪くんと二人でいるところを見られたら、私の社会人生活が終わる。
 休日、二人でいたところをわざわざ確認しに来たくらいだ。あんなお姉さま方に目をつけられたらひとたまりもない。

 確かに副社長だもんね。しかも、独身で若い。お姉さま方が狙うのも分かる。

 けれど私は、そう言うのが一番嫌だった。甘い蜜を吸いたいがために近寄るおべっかたち。
 昔からそういう者たちに狙われていたから、近寄られただけで嫌悪感が半端ないのだ。気持ち悪い。

 そしてそういう者ほど、虎の威を借りる狐の如く、他者への攻撃は手を抜かない。自分は有能なのだと見せびらかしたいからだ。

 私は泣きたくなる気持ちでいっぱいになった。折角、入社したのに、すぐ退職なんてしたくない。ここに決まるまで大変だったから、余計に。

「ま、待って!」

 しかし雪くんはお構いなしに追いかけてくる。
 私と雪くんでは身長差が頭一つ分あるため、足の長さも違う。いくら早足で頑張っても、簡単に追いつかれてしまうのだ。

 腕を掴まれて、思いっきり振り払って叫ぶ。

「離して!」
「っ!」

 逃げていたんだから、抵抗するのは当たり前なのに、雪くんは凄く傷ついた顔をした。お陰で罪悪感が私の心を占める。

 やめてよ……。