お姉さま方はひとしきり私を値踏みするだけ値踏みをして、休憩室から出て行った。

「こっわっ! 高野辺さん、副社長と何があったの?」

 途端に駆け寄ってくる同期たち。そりゃ、興味津々なのは分かるけど……。

「し、知りませんよ。そもそも、副社長の顔なんて知らないんですから」

 入社式なんて緊張して、よく見ていなかったし。そもそも重役なんて、皆、同じ顔とスーツ姿。唯一覚えているのは、社長の顔と名前だけ。

 何せ我が社、リバーブラッシュの社長は女性。まさにキャリアウーマンといった感じの風貌で、壇上を颯爽と歩く姿がカッコ良い、白河(しらかわ)千春(ちはる)さまである。

 副社長を調べる傍ら、ホームページの紹介文に写る千春さまの顔写真に、思わずうっとりしてしまう。さっきまで、怖いお姉さま方に囲まれていたから、尚更だ。

 けれど目的を忘れてはいけない。私は画面をスクロールさせて、副社長の名前と顔写真を確認した。

 「……え?」

 嘘、なにこれ。

 私は思わず口を手で覆った。

 『白河(しらかわ)辰則(たつのり)』と書かれているが、間違いない。顔写真が雪くんだと、私にそう教えてくれていた。