「良かった。今更だけど、私がしていたことって雪くんにとって、負担だったんじゃないかって思っていたから」
「仮にそうだとしたら、こんなところで高野辺に声なんかかけないよ」

 確かにそうだ。嫌な過去を思い出す相手にわざわざ会って、何になるんだろうか。

「ずっと高野辺には助けられてきたから、今度は僕がって思ったんだ」
「え?」

 どうやって? 住まいなら、実家から通っているからお世話になることはないし、他に助けてもらうことなんて……。

 けれど雪くんは自信満々に微笑んで見せるだけで、詳しいことは教えてくれなかった。

「ほら、同じオフィス街にいるから、何かと、ね」

 ただそれだけ言うと「そんなことよりさ」とすぐに話題を変えられてしまう。

 この時の私は、雪くんの言葉をそのまま受け取っただけで、深く考えようとしなかった。雪くんとの再会を喜び、戸惑い。感情を上手くコントロールできなかったせいだろう。

 もっと深く、聞けばよかった。今どこで働いているの? 何の仕事をしているの?
 そのたった二言が言えなかっただけで、私は次の日、とんでもない目に遭うことになる。

 多分、雪くんの方は……できていたの、かな……?