「そうじゃなくて、患者さん。翔くんの診察を待ってる患者さん、いるんでしょう?」


煮込みハンバーグを食べ終えた瑠愛の口を拭きながら、真衣は言う。

まったく。
こんなときにまで患者さんの心配をするなんて。真衣がそんな風に優しいから、俺は……


「甘やかしたくなるんだ」
「えっ?」

「真衣が自分のことより患者や家族のこと第一だから、たまには甘やかしたくなるんだ」


真衣の目を真っ直ぐ見つめ、俺の想いを伝えた。

ハンバーグを取ろうとしていた真衣は、嬉しそうに頬をピンク色に染める。


「嬉しい……ありがとう」
「ハワイ、行く?」

「うん。でも、そういうのは最初で最後。私、翔くんと瑠愛がいる生活が幸せなの」


そう言いながら、真衣はハンバーグを口に入れた。

……やられた。これはもう、俺が完全に負け。

結局、彼女の方が1枚も2枚も上手(うわて)だったというわけだ。真衣を喜ばせるはずが、彼女の言葉で俺が喜んでどうする。


「ありがとう、翔くん」


やっと可愛い笑顔を見せた真衣は、空になったお皿をキッチンへと運び始める。俺もそれを手伝った後、浜岡にメッセージを送った。


『ハワイ、行くわ』


瑠愛とお風呂に入って再びスマホを手に取ると、浜岡からの返信に気が付く。



『マジ? あれ、冗談で提案したつもりだったのに』