正直、彼女の執着心には驚きしかない。


「あ、それと、昼に食べたきんぴらごぼうサンド美味かった」

「それならよかった」
「また頼むな」


真衣の背中に触れ、俺は医局へと向かった。

そして、残りの仕事をすべて終わらせ、真衣に『今から帰るよ』とメッセージを送れたのは19時頃。おおよそ伝えた時間通りだ。

スクラブから私服に着替えて病院を出ると、足早にマンションへと向かう。玄関のドアを開けた瞬間、部屋中に夕飯のいい匂いが漂っていた。


「ただいま」
「あ、翔くんお帰り」

「いい匂い。煮込みハンバーグ?」


「よくわかったね」と言いながら、真衣は完成した料理を次々とお皿に盛り付けている。

瑠愛は夕飯が出来上がるまでリビングで絵本を読んでいたが、俺の姿を見て「パパ、おかえり!」と駆け寄ってきた。

帰宅すれば、最愛の妻と愛娘が出迎えてくれる幸せ。その幸せを、大学卒業したばかりの小娘に誘惑されて自ら壊してしまうようなことを、俺がするわけない。


「翔くん、仕事して疲れたでしょう? 手を洗って、早く食事にしよう」
「あぁ、ありがとう」

「ほら、瑠愛も。パパと一緒に手を洗ってきて」


真衣にそう言われた瑠愛は「はーい」と返事をすると俺の手を引っ張って、洗面所へと連れて行く。