学院にて、あいも変わらずジョシュア様の腕を組んで歩くドロシー嬢をお見かけしました。

 そしてドロシー嬢は、私の顔を見るなりガッカリしたお顔をなさるのです。
 私を殺そうと刺客を差し向けるなど、ジョシュア様に対する甘えた態度とは裏腹に、過激なことをなさるお方です。

 ドロシー嬢の正体を知ってしまってから私の彼女を見る目が変わってしまったのか、同年代の生徒より少しだけパサついたチェリーレッドの髪や、笑った時に見え隠れする目尻のシワが目につくようになってしまいました。

 あら、あまりに露骨に観察していたら、ドロシー嬢と腕を組んで笑顔を振り撒いていた我が婚約者様と目が合ってしまいましたわ。

「エレノア、今夜のマクナリー伯爵家の夜会を忘れていないだろうな?」
「はい、存じております。ジョシュア様は本日どのようなお色味のお召し物になさるご予定ですか?」
「そうだな、今日は黒にしよう。お前は金を身につけるように。それと、分かっているだろうがいつも通り僕が霞むような派手な装いにはするなよ」
「承知いたしました」

 今夜はマクナリー伯爵家の夜会にジョシュア様と二人で招待されているのですが、ジョシュア様は私の髪色である黒を身につけられるとのこと。
 そして私には、ジョシュア様の髪色の金を身につけるように命じられたのです。
 婚約者同士で夜会に出席する場合には、お互いの髪色や瞳の色を合わせるというのが、円満な婚約関係を結べているというアピールになるものですから。

「ジョシュアさまぁ、ドロシーもジョシュア様にエスコートしてもらって夜会に出たいです。今日のマクナリー伯爵家の夜会にはお父様のエスコートで出席しなければなりませんが、ダンスはドロシーと踊ってくださいね」
「ドロシー嬢、残念だが僕が君をエスコートすることは難しいだろう。建前上僕の婚約者はエレノアだからね」

 『建前上』とは? 本音は別にあるとでも?
 このボンクラ、本当に馬鹿にするのもいい加減になさいませよ。

「えぇー。そんなの狡いです。私だってジョシュア様と夜会を楽しみたいですわ」

 ドロシー嬢、ジョシュア様への流し目の隙に私の方を睨むことはおやめくださいな。
 私がまだ生きていることが納得できないお気持ちがダダ漏れです。

「エスコートすることはできないが、ダンスは誘いに行くから、楽しみにしていよう」
「はい。楽しみにしていますね!ドレスは綺麗な青に決めているんです!」
「そうか。それは楽しみだな」

 青色はジョシュア様の瞳のお色ですわね。
 赤いお髪とエメラルドグリーンの瞳を持つドロシー嬢に、反対色の青いドレスとはなかなか難しいコーディネートですけれど。

「それでは、ジョシュア様また夜に。失礼いたします」

 これ幸いと言うべきか、学院以外の場では婚約者である私を尊重しているかのような態度をなさっているジョシュア様。
 夜会やサロンのエスコートは当然のこと、私への手紙、贈り物なども最低限はなさっておられます。
 
 そうでなければ私の家族にも勘づかれてしまいますものね。
 国王陛下の王命による婚約というものは、ボンクラジョシュア様にとっても、それなりには重要な意味を持つものなのでしょう。

 それにしても、今夜の夜会にドロシー嬢が招待されているとは思いもよりませんでした。
 自由のきく学院とは違い様々な権力者や貴族が集う夜会で、ジョシュア様がドロシー嬢にどのような態度をなさるのか、私は今から不安でならないのです。

「ドロシー嬢も、プライヤー伯爵の手前派手なことはなさらないと思うけれど」

 今晩のことを考えるだけで、自然と足取りは重くなります。