――場所は、沙理との思い出の場所”ZIGGY”。
俺は沙理に「話がある」と言われてこの店にやって来た。
彼女は店内の一番奥に座ると、俺を手招きして座らせた。
横の壁には沙理との写真を剥がした後に貼った矢島とのツーショット写真。矢島とはケンカをしてから喋ってない。だから、この時のことを思い出すだけでも胸が苦しくなる。
俺が写真を眺めていると、店長がお冷とカメラを持って来た。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、コーラを二つ」
「かしこまりました。良ければチェキでお二人の写真をお撮りしましょうか?」
「いえ、大丈……」
「うわぁ! 久しぶりに撮ってもらえるので嬉しいです。お願いします!」
彼女は俺の言葉をかき消すと、店長は俺達にカメラを向けた。一枚の写真が撮られると写真は彼女の手中へ。
俺は複雑な気持ちのまま彼女に聞いた。
「今日は何の話があるの?」
「あっ、う……うん。あのね。……この前も少し言ったけど、朝陽とまた付き合いたくて」
「……」
「浮気を許してもらえてから考えてた。私はやっぱり朝陽の彼女でいたいし、これからも二人の思い出を作っていきたいなぁと思って……。ダメ……かなぁ」
「……」
「あっ! えっと……、返事は急ぎじゃないの!! ゆっくりでいい。ただ……、少し前向きに考えて欲しくて」
「わかった。俺も心が整理しきれてないからすぐに答えが出せないけど考えとくよ」
「ありがとう。待ってる」
「……で、どうして俺をここに連れてきたの?」
「実は先日、友達と一緒にここへ来たんだ。そしたら、私達が一緒に撮った写真が剥がされて矢島さんとのツーショット写真がここに貼られていたから、なんか寂しくなって……」
彼女はそう言いながら、”卒業記念”と書かれた矢島とのツーショット写真に手を添えた。
その時俺は何故かその写真が沙理に触れられて欲しくなくて、すかさず彼女の手を取った。
すると、彼女はビックリした目で俺を見る。
「えっ! 急にどうしたの?」
「いや、何でもない……」
「変な朝陽〜。ねぇ、さっき撮ってもらった写真をどこに貼る?」
「えっ」
「せっかくだから貼ろうよ。再スタート記念として」
俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
何故なら沙理にフラれてからの短期間の間に状況が二転も三転もしてきたから。
木原との一件は解決したし、矢島には偽恋人を解消されてしまったから沙理と復縁しても問題はない。
にもかかわらず、すぐに答えを出してあげれないのは何故だろう。
俺達は店を出ると、外は小雨が降っていた。彼女は用があるからと言ってその場で別れる。
俺はカバンから折りたたみ傘を出して駅までの道を一人で歩く。この2ヶ月間の出来事を振り返りながら、一歩一歩……。
すると、俺の足元にヒュンっと何かが横切った。すかさず目で追うと、そこには……。