彰が一時退院する日、私は、有休をもらって、彰に会いに行った。
病院の待合室に彰の姿があった。いつもは、パジャマ姿だったから、私服見るの初めてだ。

『麻里亜!来てくれたの?仕事は大丈夫なの?』
『うん。有給もらったから。一番に退院、おめでとうって言いたくて。』
『ありがとう。これで自由に電話したり、メッセージしたりできると思うと、わくわくする。』

今まで彰は、スマホ使いたいときは、携帯電話使用許可まで行かなきゃ連絡はできなかった。
これから1週間は、自由にできると思ったら、私も嬉しい。
会計を済ませて、私と彰の元に60代前半の綺麗な女性が来た。

『彰君、この方は?』
『恋人の麻里亜だよ。照れ臭いけど』
『まぁ、恋人だったの?私は、彰の叔母の柚木志保と言います。』
とても物腰が柔らかくて、優しい言い方。彰の優しい性格は、たぶん、父方経由だろうな。
彰は、照れ臭そうに笑ってる。

『わざわざ来てくれてありがとう。智君から話聞いたんだけど、手術にもたちあってくれたんですって?
ありがとうございます。あの日、あの時、休み入れたかったけど、ちょうど職場の妊婦さんが育休入り始めて
ダメだったの。智君だけって申し訳ないって思ってたけど、麻里亜さんもいてくれたと思ったら、感謝しかないわ。』

志保さんは、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
私だって、図々しく退院の日に来て申し訳ないと思ってる。
すると、志保さんは『そうだ!』と手をたたいた。

『ねぇ、これからお昼一緒にどう?私のオススメの純喫茶があるんだけど、3人で行きましょう。』
『わ、私もいいんですか?』
『いいのよ!遠慮しないで。彰の手術に立ちあってくれたお礼もしたいのよ。」

麻里亜は、心の中で『彰と智の性格のルーツがはっきりわかった』と感じたのだった。

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純喫茶『キンモクセイ』

ここは、志保さんの行きつけの常連らしい。店主も『志保さん、いらっしゃい』とあいさつした。
店主は、ダンディな渋い方だった。

『こんにちは!いつものホットサンドセットお願いします。』
『かしこまりました。お連れ様は、どうされますか?』
『私のおすすめは、サンドイッチセットよ。麻里亜さんの好きなの選んでちょうだい』

どれもおいしそう!

『じゃあ、ナポリタンとアイスカフェラテで。』
『彰君は?食べやすいものありそう?』
『僕は、サンドイッチセットにしようかな。ドリンクは、烏龍茶でお願いします。」
『かしこまりました。』

店主は、笑顔で注文を聞いて、厨房へ行った。

志保さんは、笑顔で『ところで~』と言った。

『彰君と麻里亜さんってどっちから告白したの?』
やっぱり気になるのは、そこですよね~~。
私からだというのは、恥ずかしい!言ったら、セリフは、なんだとか聞いてくるにきまってる。
『えっと・・・・私から彰に言いました。』
『麻里亜さんって大胆なのね!』
志保さんは、笑顔できゃーと言った。気持ちがまだ若いなぁと麻里亜は、言いかけたが、あまりにも失礼なので
言わないでとどめることにした。

『おばさんって相変わらずだね。韓流ドラマの見すぎだよ』
『若い子の恋愛の話聞くのっていつでもわくわくするのよ。』

彰は、志保さんの扱いに慣れてるなぁ~。
麻里亜は、恥ずかしくなって下を向いた。早く注文したものが来てほしい!と願った。
二人は、わーわーと楽しそうに話してる。私、邪魔してるんじゃないかと不安になる。

『お待たせしました。ホットサンド、ナポリタン、サインドイッチです。飲み物は、すぐにお持ちいたします。』

店主が注文したものをタイミングよく持ってきてくれた。
どれもおいしそうだ。

『さぁ、食べましょう!』
3人で『いただきます。』と言って、食事を始めた。

『このナポリタン、今まで食べた中でおいしいです!』
『ホント?よかった~。連れてきた甲斐があったわ』
彰を見るとおいしそうに食べてる。よかった。

『麻里亜、どう?』
『うん。雰囲気もおしゃれですごく好き!!』
『ははは。よかった。僕も昔、叔母さんと兄貴の3人で来てたよ。』
そういえば志保さんって旦那さんは、どうしたんだろう?

『旦那は、若いうちに離婚したのよ。子供は、いなかったから、財産分与してサヨナラしたわ。
あ、あくまで前向きに離婚したのよ。気にしないでね!』
明るく離婚したと話す志保さん、強いな。それから再婚も考えてないらしい。

その後、すぐに店主がコーヒー、カフェラテ、烏龍茶持ってきてくれた。
『あら、今日は、アイスなのね。」
『はい。今日は、気温が高いのでアイスにいたしました。ダメでしたか?』
『いいえ。相変わらず気が利くのね。嬉しいわ』
『ありがとうございます。』

店主さんってスマートでよく気が利くなぁ。
カフェラテも甘さちょうどいい。
彰曰く『店主さんは、砂糖入れすぎるとコーヒーのコクが引き出せないってこだわりがあるんだ』と密かに
教えてくれた。なるほど。こだわりがあるんだなぁ。

それからしばらく3人でおしゃべりを楽しみ、私は、お代を志保さんに渡そうとしたが
『おごりだから気にしないで』って笑顔で断られてしまった。
申し訳ないなぁ。

志保さんの車に乗り込み、送ってもらうことに。

『志保さん、ありがとうございました。素敵なお店に連れてってくださって。しかも
お代まで』
『いいのよ。私も楽しかったから気にしないで。彰君とこれからも仲良くしてくれたら、私はそれで
十分嬉しいのよ』

そう言ってもらえるとすごく助かる。

『じゃあ、彰、ゆっくり休んでね!』
『うん。麻里亜もね!』

笑顔で彰と志保さんを見送って、マンションの自分の部屋に帰った。

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翌日、会社にて。

私は、林さんに呼び出された。なんだろう。怒らせることしたか?
考えをぐるぐる廻らせて、屋上に行くと林さんがいた。

『あ、高橋さん!この前、ありがとうございました。』
この前って、なんだろう?麻里亜は、思い出せないままでいると
『ストーカーです!あの時、弁護士さん紹介してくれたじゃないですか。警察へ相談して被害届け出したら
ストーカー捕まったんです!高橋さんのおかげです。これ、お礼のお菓子です。』

麻里亜は、一気に思い出した。彰のことや仕事で忙しくて忘れてた。
そういえば智さん、林さんと警察へ相談したと言ってたなぁ。
かわいい袋に包まれたお菓子は、手作りらしい。

『ありがとう。よかったね。解決して』
『はい。高橋さんのおかげです。私、実は、あの弁護士さんとお付き合いさせてもらうことになりました。』

はい?ちょっと待って?今、なんて言った?付き合い?
麻里亜は、一瞬、固まった。理解が追い付けない。

『柚木さんに思いを話したら、OKしてくれたんです。すごく優しくて、スマートなんだけど、忙しいらしくて
ちょっと心配』
『そうなんだ。幸せになってね!』

智さん、林さんといつそんな関係になったんだろう。
林さんは、いい子だよ。悪い子ではない。
そんなの私もわかってるんだけど。
思いがけない展開に麻里亜は、午後から仕事に手がつかないのだった。

またもや会社の階段から落ちて骨折とかしそうになった。
また入院とかになったら、彰との初デート、水の泡になりそうだった。