そう考えて廃墟周辺を見回してみたけれど、風で木々が揺れているばかりで詩乃たちの姿は見えなかった。

旅館の玄関は広く、比較的綺麗な状態が保たれている。
だけど一歩中へ足を踏み入れると、ホコリ臭さが鼻を刺激した。

当時は白かった壁にはスプレーでラクガキがされていて、窓もあちこちが割られている。

注意して歩かないと、ケガをしてしまいそうだ。
「どこにいるのか聞いてみなきゃ」

1顔ホールで立ち止まり、友梨奈にメッセージを入れた。
友梨奈からはすぐに返信があり、2階の一番奥の部屋にいるという。

「どうしてこんなところにいるんだろう」
絵里香がブツブツと文句を口に出して言うことで、恐怖心を抑えようとしている。

廊下を奥へ進んだところで2階へ上がる階段を見つけた。
廊下には散乱していたゴミやガラス片がない分、まだ歩きやすい。