そう簡単に盗むことなんてでいなくて、早希の心臓はドクドクと早鐘を打ちはじめた。
もし失敗したらと想像して、嫌な汗が背中を流れていく。

呼吸が乱れて、過呼吸になってしまいそうだ。
そんな先に気がついて絵里香が、早希の前に立って、パンを吟味し始めた。

「どれがいいかなぁ?」
とわざとらしく声を出して呟き、注目を浴びる。

それを見た早希は小さく息を飲んだ。
今ならパンを制服の中に隠すことができる。

早希は咄嗟に購買から後ろを向いた。
みんなに背中を向ける形になってパンをそっと制服の中に入れる。

その間にも絵里香はパンを選んでいて、「これにしよ!」とメロンパンを手に取ったりしていた。

「おばちゃんこれちょうだい」
後ろで絵里香がパンを購入しているスキに、早希はその場を後にしたのだった。