「あ、あの……ありがとう」
早希がすぐに女子生徒にお礼を言う。

「あなたが噂の?」
「そうだよ。私がみんなの病気を治してる」

コックリと頷くとつややかな黒髪が揺れる。
早希は目に涙を浮かべて何度も何度も女子生徒にお礼を言った。

さっきまでの苦しさは嘘のように消えている。
「ねぇ、なにかお礼をしたいんだけど、なにがいい?」

病気を治してもらっておいてなにもお礼をしないのでは、早希も気になるんだろう。

「そうだなぁ。私、チョコレートが大好きなんだ。だから明日、チョコレートを持ってきてくれない?」

「もちろん! ここに持ってくればいいの?」

「ううん。チョコレートは高野早希さんの下駄箱に入れておいてよ。そうすれば私取りに行くから」

女子生徒は早希のネームへ視線を向けて言った。
フルネームで名前を呼ばれた早希は照れくさそうに笑って「わかった」と、頷いたのだった。