やっぱりあの噂はただの噂だったんだ。
屋上に、病気を治してくれる女子生徒なんていない。

もともと半信半疑だったけれど、早希の病気が治るかもしれないという期待が見事に打ち砕かれて絶望的な気分になる。

「早希、もう少しだから頑張って」
後少しで入り口に到着するというところで、二人の前に人影が立ちはだかった。

コンクリートにスカートが揺れる影が見えて、絵里香は足を止めた。
顔を上げてみるとそこには見知らぬ顔の女子生徒がひとり、立っていた。

胸元にゆれるリボンは赤色だから、1年生だとわかる。
長い黒髪を腰まで垂らした女子生徒は絵里香たちよりも頭ひとつぶん小さく、それなのに存在感がある子だった。

驚いた絵里香がなにも言えずにその子をジッと見つめていると、女子生徒はこぼれ落ちてしまいそうなほど大きな目を細めて微笑んだ。