「挨拶でもすれば、最後なんだろ」

頬杖を付いた斗空が手に持ったジョーカーを見ながら言った。

「う、うん!あゆむんあいさつして!」

「そうやな!これ貸そか!?おたマイク!」

智成くんからお玉を渡されて、2人が座ったから私だけ立ってる状態になった。


これが本当に最後…

になっちゃうのか。


「……。」

お玉の柄の部分をぎゅっと持って、とんがり帽を外した。

「今日は…私のためにありがとうございました!」

ぺこりと腰が90度に曲がるくらい頭を下げた。勢い余ってそこまでしちゃったけど、それだけ感情が入り込んじゃってたから。

顔を上げるとみんな私の方を見ていてちょっとだけ緊張しちゃった。

「えっと…っ、急な転校が決まってすごい不安だった時に行くはずだった女子寮には空きがないって言われて…臨時寮(ここ)に来ることになって」

思い出すあの日のこと、海外で暮らすかここで暮らすかそう言われて私はここを選んだ。

「最初は…なんだこの寮!?って正直めちゃくちゃ嫌だったんだけど」

「歩夢ちゃん正直すぎるで」

「素直でいーんだよあゆむんは♡」

私の言葉に智成くんとさっちゃんが時折相槌を入れる、それを斗空はただ静かに聞いて。

「歓迎会してくれたことはすごい嬉しかったし、トランプで負けた斗空が作ってくれたカルボナーラは今まで食べたカルボナーラの中で1番おいしくて、夜は苦手だったんだけどさっちゃんに借りたシフォンのおかげで毎日眠れるし、寮に来たばっかで困ってた私に智成くんが案内してくれたからすぐに覚えられたし、それから…」


まだいっぱいある。


学校で1人だった私を1人じゃないよって教えてくれたのもみんなだった。

誰もいないプールを見た時、悲しくてつらくてもう学校辞めたいなって思ったけど振り返ったらみんながいたから…


ここへ来てよかったなって思ったの。


やっぱりここがいいって思ったの。



あんなに嫌だと思ってた臨時寮が大好きになってたんだよ。



でも言えないよ。


もう何も言えない。



だって涙がポロポロ溢れて来るから。



喋りたくても声が出せなくて、ひくひくと声が詰まる。


拭いても拭いても涙は止まらくて、ポタポタとこぼれた涙は机を濡らして。



みんなといるのが楽しかった。

みんなといられるのが嬉しかった。

みんなといるのが好きだった。


だから私…


ぎゅーっとお玉の柄を両手で握りしめる。



「本当はずっと…ここにいたいですっ」



女子寮になんか行きたくない。

ずっとここにいたい。

出て行きたくなんかないよ。


「私も、みんなと一緒にいたい…っ」



みんなと離れちゃうなんて嫌だよ…!