「歩夢ちゃんの気持ちもわかるで」

「え?」

そこらじゅうの窓が開いた廊下はどこからも風が入る、夏の風だからそんなに気持ちよくはないけど。

「オレも同じクラスやからなぁ、歩夢ちゃんがどこに立たされてるかよぉわかってるつもりやで」

「……。」

どこに、とはたぶん教室内での私のポジション。
例えばピラミッドみたいな三角形があったらあの私は1番下ね。

「ごめんな、オレ話しかけるぐらいしかできへんくて。女の子たちの縄張りは難しいねんなぁ」

「縄張りって…」

「あれ、ちゃうっけ?」

「ううん、こうして普通に話してくれるだけで嬉しいよ」

学校でも変わりなく話しかけてくれる、それだけで十分救われる。

そうだ、まだ1人じゃなかったね。

「オレが女の子やったらよかったな~」

女の子の世界はちょっと難しいけど。

「明日から女装しよか?あ、でも壮太郎とキャラかぶるな」

「キャラはかぶらないよ」

「かぶるやろ、美少女枠!」

こうして励まそうとして笑わせてくれる、その気持ちは嬉しくて。

「智成くんって本当に誰にでも優しいよね」

それは智成くんのいいところ。

「好きな子にはもっと優しいで?」

グイっと近付いて私の肩の上に腕を乗せる、顔を傾け視線を合わせるようにして。

「優しくするで、いつでも」

キザっぽく声をワントーン下げて、これはこれで智成くんって感じする。そんでもってこの扱いにも慣れちゃったかも。

「ありがとう、じゃあその時が来たらね!」

スッと手を下ろすように促して、微笑み返した。

智成くんも笑ってた。

「でもな、オレだって本音を言えば出て行ってほしくないで?」

「え…」

「壮太郎も泣くほど嫌がってたからな」

あとは階段を上れば音楽室に着く、先に階段を上り終えたところで後ろにいた私の方に振り返った。

「みんな歩夢ちゃんのこと思ってるんよ」

目を細めて微笑んで、そのあとくしゃっと笑った。

その顔には少しだけ照れちゃった。