「じょっ、女子は女子寮に住むのが通常じゃん!?だから私もそっち行こうかなって!」

ずしんと重苦しい無言に耐え切れなくていつもより明るい声を出した。

「最初は女子寮のつもりで来たんだもん、空きができたならね!入ってみてもいいかな~…なんて」

でも全然明るい空気にならなかった。

「だってそれが普通じゃん?」

それどころかどんどん沈んでいくみたい。

「いいけど、歩夢の決めたことなら」

斗空の声が冷たくて。

「うん、だよね…」

どうしてだろ、何を言っても言い訳を言ってるみたい。

誰に何の言い訳もいらないのに。


でもなんて言えばいいの…?


だって私…


“行くなよ”


もう一度、斗空の言葉が聞きたかった。


「…私はここにいない方がいいのかなって」


斗空もさっちゃんも智成くんも、きっとみんな本当なら友達になりたいって思うそんな人ばかりで。

私がいちゃいけない場所なんだ。

私がいていい場所じゃない。


“もう臨時寮にいなくていいね、よかったね!”

疎ましく思われてる私には。


「みんな私にいてほしくなさそうじゃん?」

ねって、笑って。
つられて斗空も笑ってくれないかなって思ったり。

「……。」

「…。」

1ミリも斗空の口角は動かなかった。

てかやばいこの空気…
なんかこれはやばい気がする。

まだ掃除道具置き場まではまだもう少しあって、隣を歩いてるだけなのに遠く感じる。

全然、こっちを見てもくれないし…

「それは歩夢の好きにしたらいい」

「え?」

「歩夢が女子寮に行きたいって自分で決めたならいいんじゃないか」

それは正論だ、もっとも正しいことを言ってる。

でもだからこそ刺さって。

「だけどそんな御託(ごたく)並べてんならふざけんなよ!」

やっと掃除道具置き場に着いた、その時初めて目が合った。キリッと吊り上がった瞳は鋭く私を見ていた。

「…っ」

外のホウキはコンクリートの土管に立て掛けるだけ、斗空が持って来たホウキを立て掛ける。

私も返さないと、返して戻らないと…

さっちゃんと一緒に飲み物買いに行くって約束したし、だけど…

「どうして斗空にそんなこと言われなきゃいけないの!?」

自分でも思ってたことを突かれて悔しかった。

「なんでそんなこと言うの!?斗空には関係ないじゃん!斗空に言われたくない…っ」

泣きそうになる瞳をグッと堪えて、でも顔はぐちゃぐちゃだった。

なのに、斗空は揺るぎない瞳で私を見ていた。


「別に、俺はお前といたいだけだけど」


そんなこと…


言わないでよ。


ずるいよ。



困っちゃうじゃん、私…