「あゆむーん!英語の教科書貸して~!」

ブンブンと手を振りながらさっちゃんが教室に入って来た。長い髪に制服のスカートをヒラッとさせて。

「あー、壮太郎くんだ~!」

「こんにちは~、できれば壮ちゃん♡のが嬉しいな♡」

「壮ちゃん!可愛い~!」

あれ以来さっちゃんの周りは少し変わって、話しかけてくれる子が増えた。ほとんど女の子だけど、今も鞠乃ちゃんたちと手を振り合っていて。

さっちゃんのことを認めてもらえたんだなって思うとよかったよね、うん。よかった…


あれ待って私以外はむしろ人気者じゃん?

臨時寮にいるのに!?


臨時寮ってみんなから煙たがれるような場所なんじゃないの…?


「三森さん臨時寮で女の子1人なんだー?」

「え…」

三森さん…

“ねぇねぇ歩夢ちゃんって呼んでいい?”

そう言ってたのにな。

「女の子1人って不安じゃない?」

「ううん、そうでも…」

「普通は入ろうと思わないよね~!」

ねーって賛同する声がハモる。言いたいことがなんとなくわかっちゃう。

「でもそこしか空いてなかったからしゃーないやんなぁ」

智成くんがフォローしてくれて、うんとだけ頷いた。

「でも隣の隣のクラスの子が転校するから1部屋空くんだよ、知ってた?」

にこっと笑いながら私の方を見た。


それって…、私に何が言いたいの?


「もう臨時寮にいなくていいね、よかったね!」