「なぁなぁ花火せーへん?」

くるっと寮の方を振り向くと花火を持った智成くんが立っていた。

「智成気が利く~!いいね、やろうよ~!」

「こそっと屋上の鍵借りて来てん、行こうや」

もう片方の手には鍵をチャリンと鳴らして。
上に階段は続いてると思ってたけど入っていいんだ屋上…それはちょっと気になる。

「歩夢ちゃん、斗空呼んで来て!たぶん部屋におると思うから!」

「うん、わかった!」

智成くんとさっちゃんが廊下を真っ直ぐ歩いて行く姿を見送って青いドアの前に立った。すぅっと息を吸って、少しドキドキする胸を押さえてコンコンッとドアを叩く。

「…斗空いる?みんなで花火しようって智成くんが」

ガチャッとドアが開いた。

あ、なんか緊張して来た!

ただドアが開いただけなのに、斗空のテリトリーを覗くみたい。

「花火?」

「あ、うん!これから屋上でしようって、もう2人とも行ってるから行かない!?」

つい語尾に焦りが混じって上がっちゃった。

「いいけど」

「じゃあ行こう!」

前のめりな自分も嫌だな、いいよって言われて嬉しくなっちゃったんだもん。

もう少し落ち着こうって深呼吸をしながら屋上へ繋がる階段の方へ歩いた。

さっきまでもう少しだった夕暮れはすっかり暮れていた。

「咲月と仲直り出来たんだな」

「え…あ、うん!」

生ぬるい風が入って来て肌を伝う。

「斗空のおかげだよ、いろいろ相談に乗ってくれて…ありがとう」

きっとね、別にとか勝手にとか素っ気なく返されると思ったんだ。

そしたら私も何だって言えたのに。


「よかったな、歩夢」


そんな柔らかい表情見せられると思わないよ。

そんな優しい声で言わないでよ。


私何も言えなくなっちゃうじゃん。


うんって小さく返事をしてただ俯いた。

今自分がどんな顔してるか考えたら斗空の顔を見られなかった。