黄色のドアの前、すぅっと息を吸って深呼吸をする。息を整えたら、丁寧にコンコンとドアを叩いた。

「…さっちゃん、歩夢だけど」

出て来てくれるかな、ここは学校じゃないから…

「…なぁに?」

ゆっくりドアが開いて、隙間からさっちゃんが顔を出した。
ゆるかわの部屋着にいつものウイッグをして、女の子のさっちゃんが。 

「さっちゃん、あのね…っ」

………。

あれ、何言いに来たんだっけ!?

勢いで話に行こうって思って来ちゃったから何話そうか考えてなかった!

わーーー、しまった!
さっちゃんがぽかんとしてる!

「あの~…」

えっと、何を言おう!?
いっぱい言いたかったはずなのに何から言ったらいいかわかんないっ

言い方を間違えたらさっちゃんを傷付けちゃうんじゃないかなって思ったら…っ

「あゆむん?」

「待ってね、今言うこと考えるから!」

「え?今?」

「あ、違うの!言いたいことはあるんだけどっ」

あわあわテンパる私にさっちゃんがくすっと笑った。

「あゆむんなにそれ~!」

それはいつもの、よく見るさっちゃんで。

「なんでドア叩いたの~?何かと思ったじゃん~!」

ふふふって笑って目を細める。

学校では見せない、臨時寮(ここ)だけに見せる顔。

「さっちゃん」

「なぁに?言うこと見付かった?」

「さっちゃんはそうしてた方がいいよ」

「え…」

迷ったけど、やっぱ素直に言うのがいいと思った。

「そんなさっちゃんがいいよ」

「あゆむん…」

「そうやって私に笑ってくれるさっちゃんがいい、だから…っ」

「あゆむん、ありがとう」

ちゃんと目を見てきちんと伝えれば届くと思ってた。

「優しくしてくれてありがとう、気遣ってくれてるんだよね」

「そんなんじゃっ」

「ボク大丈夫だから、今までもずっとこうだったし」

その顔は好きな顔じゃないよ、無理に笑って見せるさっちゃんの顔は好きじゃない。

「だから気にしないで」

「さっちゃん、待ってっ」

バタンとドアを閉められてしまった。

言い方間違えちゃった?これじゃよくなかった?

でもこれが私の本当の気持ちなのに…