「さらに言うと、話しかけないでってそれだけだったか?他に何か言ってなかったか?」

ずっと壁にもたれていた斗空が体を起こした。

「…“学校ではボクに話しかけないで”って…」

「それが答えだろ」

私の顔を見てふって笑った。

「学校で話しかけるなってことは学校以外ならいいんだよ、つーかもっと分かりやすく言えば臨時寮(ここ)では一緒にいたいって思ってんだよ」

なんだろそれとんちみたいじゃん、一休さんじゃないんだから。
 
「……。」

でもそう…
なのかな?そうゆう意味なの?

だってそんなことは全然…

「学校で見る咲月と臨時寮(ここ)で見る咲月、どっちが楽しそうにしてた?」

「どっちが…?」

どっちってそんなの…
でもそれだとまた押し付けにならない?

本当にさっちゃんが…

「俺は臨時寮(ここ)にいる咲月のが楽しそうに見えるけどな」

「私だって…!」

ついムキになっちゃった。斗空にそんなふうに言われて。

だって思い出すのはいつも笑ってるさっちゃんで、あんなか細い声聞いたことないから臨時寮(ここ)では。

「あぁゆう格好してるから変な目で見られることもあるけど、咲月は咲月だからな」

「……うん」


私も正直最初は思ってた。

こんな子と仲良くできるのかなって心配だった。


でも話してみたら全然違ったの。

仲良くなりたいって思ったの。


きっとさっちゃんを知ったから。


じゃあ私が信じるのは臨時寮(ここ)でのさっちゃんだ…!


「私行って来る!」

2階に行くためにくるっと方向を変えた。 

このまま一気に階段を駆け上がるー…

「歩夢」

階段を数段上ったところで呼び止められて振り返った。

「がんばれ」

少しだけ口角を上げて笑った斗空が背中を押してくれたみたいで、私の心にぽわっと浸透して来る。

「うん!」

もう1度さっちゃんと、話したい…!