食べ終わった食器とおぼんを返却口に返しにいくのも全部自分で、片付け終わったらそれぞれ教室に戻っていく。

斗空と喋ってたせいでいつもより遅くなっちゃった、…楽しくてやめられなかったってのはあるけど。

「次の授業ってなんだっけ?」

「数学」

「…今日いい天気だよね、梅雨終わったのかな」

「現実逃避してんなよ」

窓の外を見ながら学食を出る、私たちの教室と食堂は別の校舎にあって渡り廊下を通って戻らなきゃいけない。

「あ、私トイレ寄ってくから!」

そのトイレは反対側にある。

だから斗空に先に行っててと手を振って、学食から出てみんなが向かう逆方向へ歩き出した。

私たちでも結構遅い方だったし、逆方向にあるトイレはあまり人がいなくて廊下を進めば進むほど静かになる。

だから少しの物音でも目立って。
しーんとする廊下をパタパタパタッと走る音が聞こえた。

男子トイレの入り口から、空になった食器を乗せたおぼんを持って飛び出して来た。


「さっちゃん…!?」


肩まで伸びた…あ、あれってウイッグ?なんだっけ?その真っ黒な髪と制服のスカートを揺らしながら出て来たさっちゃんは私の顔を見て驚いたような表情をしていた。

「さっちゃん、トイレ行ってたの?」

でもその手に持ったおぼんは不自然で。

「あ、苦手なおかずでもあった?でもそれトイレに捨てるのはー…」

さっちゃんが俯いた。

そんな簡単な理由なわけなかったよね。

「うわ、あいつまたトイレで飯食ってたんだ」

後ろからやって来た男の子がぼそっと言いながらトイレに入って行く。

「どっちのトイレ?」

もう1人の男の子と話しながら。

「壮太郎ちゃん女の子だから、もちろん女子~♡」

「うわーっ、キモやばっ」

ハハハハッて笑って、私の隣を通り過ぎた。

ずっとさっちゃんは俯いたままだった。

「さっちゃっ」

「あゆむんごめんね、早く片付けに行かないと学食のおばちゃんに怒られちゃうから!」

眉をハの字にして悲しそうに笑って、私の顔は見てくれようとしてくれなくて。

「じゃあねっ」

「さっちゃん待って!」

「あゆむん!」

引き止めようとする私にさっちゃんの大きな声が廊下に響く。

「…学校ではボクに話しかけないで」

「え…?」

引き止めたかった。

なんで?どうして?って聞きたかった…
けど、さっちゃんが逃げるように走り去っていったから何も言えなかった。