「ほな掃除するで!」

「あゆむん髪の毛縛った方がいいよ、ゴムかしてあげる~」

「あ、ありがとう」

借りたゴムで髪の毛を1つに結んできゅっと引き締める。

智成くんが上履きと靴下を脱いで少しだけ水の張ったプールの中に滑らないようにと縁のところに手をついて飛び下りた。

そのあとをついてさっちゃんも斗空も軽くぴょんっと下りていく。

結構高いし、飛び下りても平気かな?
掃除してないプールって滑りやすそうだし、ちょっと怖い…

「ん」

「え?」

スッと斗空が手を私の方に… 


貸してくれるってこと?


だよね、じぃっと見てるもん。


この手を取ってもいいんだよね…?

そーゆうことだよね…?


ドキドキした。

斗空の手に触れるのが。


手汗が噴き出しちゃいそうで、斗空の顔は見られなかった。

「なんかあったら言えって言ったよな」

「え…」

斗空の手を借りてゆっくーり下りた。裸足に感じる生ぬるい水がなんとも言えない。

「……うん」

“今度なんかあったら俺に言えよ”

言ってたけど、だってあれは寮でのことだと思ってた。慣れない寮暮らしで大変だから、そう言ってくれたのかなって…

思ってた。

斗空が手を離した。

「斗空!」

「ん」

「なんで…来てくれたの?」

クラスで決めたことだもん、今日の帰り私がプール掃除をするのは知ってたとしても…


どうして来てくれたの?


「…千堂たちが帰って行くのを見かけたから」

鞠乃ちゃんたちが?
やっぱり最初からそうだったんだ…。

「歩夢いなかったし、なんか…そんな気がして」

恥ずかしいとこ見られちゃった。

いきなりハブられてるとか、嫌だな全然馴染めてないみたいで。

「どーせ1人でいるんだろうなって思ったよね」

暗い空気になったら嫌だったしせめて笑っておこうと、顔を作りながら袖を捲り直した。

でも斗空はそんな私を真っ直ぐ見てた。


「歩夢が1人でいたら嫌だなって思った」


……、目が合っちゃった。

そうだな、とかって言われるのかなって思ってたからそんな風に言われると思わなくて。

溢れそうになる、心の奥から。

生ぬるいプールの水がどんどん熱くなるいたいに。