(いにしえ)から連綿と受け継がれてきたとはいえ、疑問に思わず手を下してきた訳ではない。

必要悪なのだとヘビ神である速男に諭された日もあった。
百合子を望んだのは、身勝手な想いであったのかと後悔した夜もあった。

けれども、そんな弱い“神獣(じぶん)”を支え、叱り、導いてくれたのは、他の誰でもない、(おの)が“花嫁”だったのだ。

「わしは、果報者じゃ」

ぽつり、つぶやいた直後。

「……さっきから、何を一人でぶつぶつ言っている」
「百合。目が覚めたのじゃな。……飲むか?」

玲瓏(れいろう)な声音が、いつもよりわずかにかすれている。腰に下げた水の入った竹筒を差し出せば、一瞬のち溜息が返された。

「…………私は、また(・・)やってしまったのか?」
「なに、皆も百合は酔うと可愛いと言っておったぞ」
「…………最悪だ…………」

竹筒を受け取ったまま、百合子の顔が背中に伏せられたのを感じ、闘十郎(とうじゅうろう)は笑って言った。

「水がひとりで飲めぬのなら、またわしが口移しで飲ませるかのう?」

背中越しに、百合子が息をつめたのが伝わる。次いで、盛大な溜息が漏れ聞こえた。