「……っ」

コクコが、息をついた。

もだえるような息づかいには、百合子を押し退けることへの葛藤がうかがえる。
百合子の両の二の腕にある、コクコの指先が震えているのが伝わった。

(どこまで甘い男なのだ)

腕力がないわけでも、体術に優れぬわけでもなかろうに。
それは、組み敷いた身体からも、先ほどの受け身の取り方からも分かるというものだ。

───百合子を、傷つけない。ただ、そのためだけに。

(そうだ。この男は……そういう男なのだ)

甘さは弱さともいえるかもしれない。
しかし百合子は、その『弱さ』が愛しいと思えてしまった。

「……お前が」

言いながら、コクコの身体に伏せた顔を上げ、百合子は自らが刻みつけた『痕』に触れる。

「これから先、残していいのは、私がつけたこの痕だけだ」

指先でなぞってみせる、赤い印。コクコの身が、びくっと跳ねた。

「……お前の罪は、私も背負う。これまでのものも、これから先のものも」