至近距離で見つめ合う状況と、いましがたの自身の発言内容を猛省するかのような、コクコのあわて振り。

冷静になったはずの百合子の胸のうちで、ふたたび荒波が立つ。

「お前という奴はっ……!」

気づくと百合子は、そんなコクコを力づくで板の間に引き倒していた。

「───……大事ないか、百合?」

わずかなのち、コクコが気遣わしげに言った。

百合子が感じた衝撃が思ったよりも少なく済んだのは、下敷きになったコクコがうまく受け身をとってくれていたからで。

「私のことより自分を心配しろ。
……無理やり倒してきた相手を、なぜ気遣うのだ」
「そうじゃのう……百合だからかもしれぬな」

ムッとして見下ろした先の少年は、困ったような笑みを浮かべる。
その笑みが、百合子のなかにあった強い感情と決意の引き金を、引く。

「わっ……」

コクコの短い叫びをよそに、百合子は彼の道着のえり元を開き、現れた鎖骨下に唇を寄せた。

「ゆゆゆ百合っ……!」

悲鳴のような呼び声と共に熱くなる肌に、吸い付く。
そうして百合子は、自身の想いを刻みつけた。