「本来であれば“花嫁”として“召喚”された者は、その世界から当人が消え行くだけとなる。
しかし、汝が望むなら、汝の存在を【初めから無かったこと】にすることも、できる」
「……それで?」
「つまり、汝のいた世界から汝のいた事実を抹消することになるのだ。
これが、何を意味するか、汝に解るかのう?」

試すように挑むように、赤い瞳の青年が百合子を見た。

首をかしげつつ、百合子は思いついたことを口にする。

「……兄上の記憶から、私のことが抜け落ちる?」
「否」

短い言葉と共に、白い杖が振られ、ゆがんだ景色をふたたび突く。
すると、円のなかに兄と『小百合』の家族、それに見知らぬ少女が浮かび上がった。

「汝は初めから存在しないのだから、汝に関わったすべての存在の運命(さだめ)が、変わる」

青年の赤い瞳が、じっと百合子を見つめた。その眼差しに射抜かれて、百合子ははっとする。

「……兄上が、あのような凶行に及ぶことは、なくなる……?」
「汝に関わったことが因果の発端ならば、結末が変わることは必然であろうな」