まるで虫けらの最期をあざ笑うかのような、軽い調子の物言い。
そのひと言に、百合子のなかの感情に火がついた。

「あなたにいったい、私や兄上の……何が、解るというのだっ……!」

怒りのために震える身体と途切れ途切れになる声。
にらみつけた先の赤い瞳の青年の口に、笑みが浮かぶ。

「さてのう……汝ら兄妹の哀れな結末は知ってはおるが、別段、想い入れはないとしか言いようがあるまいな。
我はしょせん、過去(むかし)を知り、現在(いま)をながめ、未来(さき)を見届ける存在にしか過ぎぬゆえ」
「──何が、言いたい?」
「我はあらゆる生命(いのち)の円環を傍観するモノでしかないということだ。
汝の進む道を決めるは、汝の心次第」

白い杖が、宙にくるりと小さな円を描いた。

その円の大きさに合わせ、百合子───いや、『小百合』のいた世界が窓の外の景色のように現れた。

「人として生を終えるか、それとも」

反対側に向け、白い杖が振られる。
同様に、白い空間に違う景色が浮かびあがった。

「黒い“花嫁”として、生き続けるか」

半月にも満たないあいだ、黒い“神獣”と過ごした世界。