暗い決意を秘めた眼差しと目が合ったような気がしたのは、一瞬。
『小百合』は、百合子の身体をすり抜けていってしまった。

「……っ、待て!」

気味の悪い感覚を絶ちきるように、百合子は『小百合』を呼び止めようとしたが、彼女には自分の姿も声も届かないようだった。

追いかけ、立ちはだかり、その身を止めようとしても───何も、できず。

『小百合』は百合子の見ている前で邸に火を放ち、そして。
『兄上』の側で、自らの命を絶ったのだった───。





慟哭(どうこく)が、百合子ののどを焼く。

喪失の悲しみと無力な己への憤りに、声がかすれ涙が尽きるまで泣き叫んだ。

やがて、耳鳴りと頭痛におそわれてうずくまる百合子に、先ほどの若い男の声が言った。

「これが、人間(ひと)としての汝の最期」

コツン、と、百合子の側で床を鳴らすような音が響く。

「汝の【仮の伴侶から聞いた】汝の願いの行き着く先なのだ。
……人の命とは、あっけないものよのう」