「私、なのか……?」

百合子は自分の身体を見下ろし、それから目の前の人物をもう一度見つめる。

鏡に映った己のようだが、わずかな違和感を伴い、百合子の心をざわつかせた。

「兄上、なぜこのような……!」
「────」

『小百合』の問いかけに、血まみれの手が上がり、彼女の頭を引き寄せる。

二言三言、何かを告げ『兄上』の唇が動いたのが分かったが、百合子の耳には届かなかった。

そして、力尽きたように落ちる、兄の指先。
目をみひらいた『小百合』が、懸命に兄の身体を揺さぶる。

「……兄上? 駄目です、兄上! しっかりなさってください!
あにうえ……っ、あにうえーっ……」

『小百合』の絶叫が、百合子の耳をつんざく。
魂が引き裂かれるような声に、百合子は思わず目をつむり、両腕で自らを抱きしめた。

(もし、あれが私なのだとしたら)

逃げだしたい衝動を抑え、必死に目をこらす。
背けてはいけない『現実』が、そこにあるのならば。

(私は、見届けなければならない)

そう思う百合子の前で、『小百合』がゆらりと立ち上がった。
何かを覚悟したような素振りで、こちらに向かい、歩いてくる。