小窓から差し込む陽ざしに、色素の薄い髪がいっそう透けて見えた。
「……来月には寄宿舎に入られるのですね、兄上」
ため息と共に、うつむく。
列強に負けぬ心身を養うために。優秀であればこそ、進む道だ。
それが解っていながらも、素直に兄を送りだせないのは、この邸で自分を真に理解する者を失うつらさからだろう。
「……そうだね。でも」
カップをソーサーに置く音がして、向けられた視線を感じ顔を上げる。
「たとえ側に居なくとも、僕はいつでもお前の味方だよ、小百合」
やわらかな眼差しと、微笑み。
そして、優しい響きの呼びかけ。
───まぎれもなくそれが、自分の【本当の名前】。
失った記憶の正体は、忘れてはいけない大切な人と、自らの名だったのだ。
*
「兄上……」
思いだしたと同時にあふれた涙が、闇につつまれた百合子の視界を一瞬ぼやけさせた。
直後、思いきり眉を寄せる。
「───なんだ、ここは」
暗闇というには語弊があった。