“返還の儀”の手順や方法自体は、ここ“神獣の里”で生まれ育った際に、すでに教わっていた。
あとは、ヘビ神の許可と『力』の委譲だけだった。

「───……“花嫁”を還してやりたい。それが汝の願いだというのか」
「左様にございます」

間、髪をいれずに応えると、ふん、と、鼻であしらわれた。

()(ごと)を申しよって」

突き放すように言い置いて、速男は釣竿を引くと黒虎を見ずに宮のほうへ歩きだした。
その背中に、あわてて声をかける。

「カカ様!」
「儀式に必要な物は猪子にそろえさせる。
……汝の願いは我に届いたのだ。もう用は無かろう。現世に帰れ」

そう言って、肩ごしに振り返るヘビ神の目は、開かれていた───赤い眼光は、力を遣った『(あかし)』。

(いったいカカ様は【何を視て】おられたのだ……)

自分に背を向け、水面に映した赤い瞳で。
過去も現在も、未来をも見通すことのできる、その力で───。