ひとめ()れ、というものが、人の世にはあるという。

「美形じゃのう……」

口をついて出た感嘆の言葉は、彼女の表面的なものをなぞったに過ぎない。

背の半ばまであるつややかな黒髪も、磁器を思わすような白い肌も、それに映える紅唇も。

潔癖さと激情を宿す強い意思の輝きを放つ瞳に比べれば、彼女を彩る装飾品でしかなかった。

魂の高潔さが表れた、その眼差しに射抜かれた瞬間。

自分という“神獣(もの)”が、人の世に遣わされたことの意味が、ようやく解ったような気がした。

彼女と出逢うため、今日まで生きてきたのだと。
……そう、思った、のだが。

「私を、すぐに戻してくれ!」

彼女の口から発せられた初めての『願い』は、ふたたび自分を無慈悲な神の獣───『死の遣い』へと、追いやったのだった。