御しがたい音は百合子の脳内を支配し、知りたいと思う百合子の心を締め出そうとする。

(……私は、何を……忘れている……?)

思考は記憶を呼び起こそうとするが、本能は【その記憶に触れるのは禁忌だ】とあらがい続ける。

「……はぁ、はぁ、……ッ」

突き刺さるような痛みに、百合子は自らの頭をかかえこんだ。

「百合様っ!?」

異変に気づいたらしい美狗の両手が、百合子を支える。

が。

───百合子が気力を保っていられたのは、そこまでであった。

深く……暗い谷底へと、まっ逆さまに落ちていくような感覚を最後に、百合子は意識を失ってしまった……。