小屋の側までやってきた百合子の足が、止まる。
そこには、朽ちた枝を思わせる手と、干からびた木の根を思わせる足、ふくらんだ腹をした者がいた。

(まるで、餓鬼ではないか……!)

骨と皮だけの身体に飛びかう無数のハエが、その者の死期を待ちきれずに催促しているかのように見えた。

百合子は呆然と、その場に立ち尽くす。

犬の耳が生えた女よりも、人の言葉を話す熊よりも。
───地面に座した、その『ヒト』が、おそろしかった。

生まれて初めて感じる衝撃に、小刻みに身体が震えだす。

(あれで……生きて、いるのか……?)

うつろな目は、何を映すのか。言葉にならない声は、誰かを呼んでいるのだろうか。

まばたきもできず、一歩も動くことができない百合子の横を、その時、黒い影がすり抜けた。

(えっ……?)

影だと思ったそれは、百合子がおびえた『ヒト』の側で、黒い道着の少年となる。

百合子からは背中しか見えないが───間違いなく、コクだろう。

コクの片手が髪の抜け落ちた頭に触れた、と、思った瞬間。
まるで石像が打ち砕かれるかのように『ヒト』であった存在は粉々に壊れ、地に転がった。