百合子が素直にうなずいたのには訳がある。

コクの言う『あと二日』とはなんだと問うと、美狗は自分を百合子の“影”に入らせることを条件に、その意味を教えると答えた。

“影”に入るとは、簡単にいえば対象に憑依(ひょうい)することをいうらしい。

人外のモノに我が身を預ける気味の悪さは、百合子にはなかった。
むしろ、コクとの間にある境界線を無くしたいという思いが勝り、美狗の提案を受け入れたのだ。

そうして百合子はいま、コクが“神獣”としての“役割”を果たすべく訪れているはずの村に、連れて来られていた。

(しかし……これで村人の生活は成り立つのか?)

田畑は土が乾き、ひび割れていて、作物が実った様子がない。
実りの秋に稲の刈り跡はなく、畑らしき土山にも収穫したような形跡がなかった。

(この村は廃村なのか?)

雨風をようやくしのげる程度の小屋が転々とあるが、人の姿が見当たらない。
葉の一枚もない枯れ木が、いっそう寒々しく百合子の目に映る。

「あ"あ"ー……、う"ー……」

砂ぼこりが舞うなかを歩く百合子の耳に、奇妙なうめき声が入ってきた。

声は、小屋のある方角からする。
不審に思い足を向けると、近づくにつれ、すえたような臭いが鼻をついた。