祈りつつ、少女のもとへと駆けつけた百合子が見たものは。

折れた幹に腹部を貫かれ、手足があやつり人形のようにちぐはぐにもつれた少女の姿だった。

百合子の荒い息づかいの合間に、ひゅうひゅうと喉笛が鳴るのが聞こえた───絶命間近の、息づかいが。

血泡を吹き生きているのが不思議なほどの無惨な姿と成り果てた少女。

「……いま、楽にしてやる」

自らの首筋にある黒い“(あと)”が熱くなるのを感じながら、百合子は左手で少女の眼窩(がんか)を覆った。

───一撃で、心の臓を仕留める、右手。
返り血は、百合子の白い顔を紅色に染め変えた。

「───……百合」

自分の名を呼ぶ声色。
少年が放つ音域でありながら、その響きは老成されたもの。

どのくらい、立ち尽くしていたのか。
気づけば、頭上にあったはずの満月は、傾き始めていた。

「遅くなって、すまなかったのう。
……大事ないか?」

気遣う言葉は真に入り、百合子の心を【こちら側】へと引き戻す。

「平気だ」

薄く笑って振り返れば、闇にまぎれるような漆黒の髪の少年がいた。
百合子のものよりも低い位置から伸ばされた手が、百合子の二の腕をぐいと引き寄せる。