「私は……お前の嫁ではないのか!?」

言って百合子は、自らのはだけかけた着物の上衣を腰まで落とす。

「なぜお前は私に対し、そんなっ……他人行儀なのだっ……」

勢いに任せ衣を脱いだせいで、さらした身体が寒かった。
……心のうちは、もっと。

「私は、至らぬことも多い嫁だろう。色気もないのも自覚している。
だが……それとて、お前の口からきちんと聞きたい。
何が気に入らなくて、私を避けるのか」
「百合……」

最初こそもろ肌の百合子を直視しないようにしていたコクの漆黒の瞳が、まっすぐに百合子に向けられた。

「それでも、わしは……───」

何かを言いかけたコクの唇が、閉ざされる。

ためらいがちに伸ばされたコクの両手が、そっと百合子の着物を引き上げた。

「……わしの“眷属”が、申し訳ないことをした。
あと二日の辛抱じゃ。
おぬしの良きように、必ず取り計らう。それで……此度(こたび)のことは、赦せ」

畳に両拳をつき、コクは百合子に頭を下げた。
その言葉と態度は、自分と彼との間に、明確に引かれた境界線のようだった。