「───百合……! すまぬ……!」

苦い声が響き、百合子の上体がコクの片腕によって抱き起こされる。

「しばし、こらえてくれ……」

何をと問う間もなく、告げた唇が百合子の胸もとに触れた。
羞恥よりも前に、くすぐったさに、のけぞる身体。

「……っ……」

傷口にそって伝う、舌先と息遣い。

痛みによる熱が肌を焼くように感じるが、同時に、相反する心地良さにもおそわれ、百合子の身体から力が抜ける。

「どうじゃ、痛みは無くなったか? 傷口もきれいに消えておる、はず……」

脱力し、ぼうっとしたままの百合子の顔をうかがい、そのまま下に移ったコクの視線が、止まった。

二三度のまばたきののち、
「すすすすすまぬっ!
傷の程度ばかり気にかけて、おぬしに対する配慮に欠けておった!
重ね重ね、すまぬ!」

思いきり、あらぬ方向を見る少年の顔が、見事なまでに赤く染まる。

百合子を抱く腕も、居心地悪そうなものとなった。

(……なんなのだ、いったい)

ぷつん、と。
百合子は己の理性の糸が、切れる音を聞いた気がした。

急に、失せたはずの力が、わきあがってくる。コクの身体を、ぐいと押し退けた。