「ご覧の通り、わたくしはヒトではございませぬ。
人語を話し人心を理解しても、所詮は人外のモノ。
人外の存在を自らの配下とし、“眷属”として召し抱えるのがコク様を始めとする尊き方々」

そう告げられた直後、百合子は畳を背に天井を見上げていた。
美狗が覆い被さるようにして、こちらを見下ろしている。

(身体が……動かない……?)

百合子を束縛する、見えない力。

畳の上に(はりつけ)にされた形となっていたが、百合子の胸中は恐怖よりもいらだちが勝った。

「私に、何をしたっ……!」
「“神力(ちから)”無き“花嫁”様の他愛なきこと。
……わたくしは、物ノ怪としては下等な存在。力無きモノにございます。
なれど」

ふっ……と笑った顔が、百合子の顔に近づく。

「貴女様を傷つける『刃』くらいは、持ち合わせております」

ガツッ、という衝撃と共に、百合子の胸もとに鋭く熱い痛みが走った。
あたたかいものが、ふくらみの谷間を流れ伝う。

「お、まえっ」
「“(あるじ)”様のお叱りは承知の上。
百合様には身をもって、ご自分が何者であるかを知っていただきたいのでございます」