「何か、百合の喜びそうな物も、頼む。香でも花でも衣でも構わぬ」
「おそれながら───それは、コク様がご自身でお選びになられたほうがよろしいかと」

むしの垂れ(ぎぬ)の合間からのぞいた女の顔が、苦笑を浮かべる。
黒虎はおおげさに溜息をついた。

「わしには、おなごの好む物は分からぬから、おぬしに頼んでおるのじゃ」
「……御意」

失笑をもらしたのを隠すようにして、今度こそ斥候(せっこう)を務めた“眷属”は“主”の元から立ち去った。

(───さて)

ひとり残された少年の眼が、容姿に似合わぬ鋭さを宿す。

今回、黒虎が“国獣”として任を受けたのは、街にまで出没するようになった山賊の『処刑』だった。

(村人が襲われているうちは「捨て置け」としていたものを)

貴族の邸や別荘を荒らされるようになり、ようやく重い腰を上げる気になったようだ。

しかし、手を汚すことも法を守ることもよしとせず、秘密裏に事を処理しようとするのは、いかがなものか。

(そうは言うても、このままにしておけば困る者がおるのも事実)