小百合は、体内に流れる己の血が、沸騰しているかのような激しい怒りを覚えた。

握りしめた両の手のひらに、爪がくい込む。勢いにまかせ、床板に両手を打ちつけた。

「なぜ、私をここへ喚び寄せた! なぜ、あの瞬間だったのだ! なぜ───」

興奮が、小百合の思考を狂わせる。
ふたたび、自分の居場所が分からなくなるほどの、めまいを感じた。

(兄、上……なぜ……!)

よみがえる、血の臭い。
吐き気がするほどの、家族らのむごい有り様。

(私は、どうしたら、良かったのですかっ……!)

───尊属殺しは、重罪。それが複数人となれば、極刑は免れないだろう。

(……私のせい、なの……です、か……?)

兄が狂うきっかけをつくったのは。
その自分が、兄の罪を世間に暴き【死をもって償わせるために命を救う】というのか。

(私は、どうしたらっ……)

小百合は、もう、自我を保てなかった。