「立花さんは、東京出身ですか?」
歩いているとき、渡辺さんがいきなりそんなことを聞いてきて驚いた。
なかなか話さないものだから、てっきり人と会話するのが苦手な人かと思っていた。
戸惑いつつも、「はい。」とうなづく。
「僕も東京出身なんです。」
東京出身の人は特に珍しくはないが、進学や就職で上京してきた人がいるからわざわざ言ってくれたのだろうか。
「そうなんですね。渡辺さん、私と同い歳ですよね。名刺見たときに年齢が書かれていたので、同い歳だなって親近感湧いちゃいました。」
少しだけ距離を詰めすぎたかと思ったが、意外にも渡辺さんは笑ってくれる人だった。
「じゃあ、どこかで会ったことがあるかもしれませんね。」
「どうでしょう。すれ違ったことくらいはあったかもしれません。」
そう言うと、渡辺さんは吹き出した。
そんなに面白かっただろうかと私は首をかしげた。
「全然気づいてねぇー。」
「…え?」
渡辺さんはまたケラケラと笑っていて、私はなんのことかさっぱりわからなかった。