"あの人"に案内されて2階へ上がる。
陽菜の部屋の前まで来ると、"あの人"がドアをノックする。
「陽菜ちゃん。お友達と彼氏さんが来てくれたわよ。」
…応答がない。
「ごめんなさい。私が声をかけても意味がないのよ。」
陽菜は本当に"あの人"が嫌いだ。
「陽菜、俺、堅治だよ。俺も早坂も心配で見に来た。顔だけでも出してくれねぇ?」
俺がそう言うと、早坂もうなづいた。
きっと陽菜には見えていないけど、この思いは伝わっている。
「…堅治くん。」
ドアの向かい側でかすかにそう聞こえた。
「陽菜!」
俺はドアをどんどんと叩いた。


「…もう、別れよう。」

陽菜のその小さな声も、ドアの向こうから聞こえきた。